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東京地方裁判所 昭和45年(ヨ)2346号 決定

申請人 甲野花子

被申請人 学校法人東海大学

右代表者理事 松前重義

右代理人弁護士 小谷野三郎

同 中村巌

同 鳥越溥

同 中島喜久江

主文

一  本件申請を却下する。

二  申請費用は、申請人の負担とする。

理由

第一当事者の求める裁判

一  申請人

(一)  申請人が、被申請人東海大学女子短期大学部専任助教授としての地位を有することをかりに定める。

(二)  被申請人は、申請人に対し、昭和四五年七月以降毎月二五日かぎり、金八万五、〇〇〇円宛をかりに支払え。

(三)  申請費用は、被申請人の負担とする。

≪省略≫

第八当裁判所の判断

一  雇用契約の発生

申請の理由一中被申請人が肩書地に本部を置く申請人主張の如き学校法人であること申請人が昭和四四年三月初旬当時申請人に雇傭されており、女子短期大学部助教授として勤務していたこと、および同理由二は当事者間に争いがない。

二  解雇

(一)  解雇の意思表示

昭和四四年三月一八日付書面で申請人に対し、本件解雇の意思表示がなされ、右書面が、同月二〇日申請人に到達したことは当事者間に争いがない。而して、疎明によれば、右解雇の意思表示は、被申請人理事松前重義によって、その意思に基づきなされたことが認められる。

(二)  解雇理由

1 経歴詐称

(1) 疎明と審尋によれば、申請人は、被申請人に採用されるにあたり、履歴書を提出したが、それには前記(争いない)事実の外被申請人主張の如き履歴が記載されており、そのうち、①昭和三一年七月から昭和三二年二月までユニバーシテイ・オブ・デンバーに在学したこと、②昭和二七年四月から昭和二八年四月まで和洋女子大学「講師」であったこと、③昭和二九年七月から昭和三〇年七月までフィートン大学附属病院に「看護婦」として勤務したこと、④昭和三七年四月から桜美林短期大学「助教授」と記載されていることは、いずれも事実に反していることが認められる。

(2) 大学が助教授を採用するにあたり、従前の学歴、職歴等を重視し、それが採否に影響すること、したがって、採用にあたって被採用者が虚偽の事実を告げて採用になれば、大学教育に重大な支障をきたすことは当然である。そして、採用後に経歴詐称があったことが判明した場合は、その詐称の程度と大学側の採用の際の調査の程度・方法を斟酌して、場合によっては解雇理由となりうるといえよう。

これを本件につき検討すれば、右①はともかく、②は、同大学部助手兼付属高等学校教諭として、③は同病院において食事の運搬等を内容とする時間制雇用員として、④は、同大学専任講師として、いずれも当時勤務していたものである。また、疎明と審尋の全趣旨によれば、被申請人が申請人を採用する際の調査は、申請人の履歴書を信用するのみで、なんらの調査を行っていない。以上の事実から、申請人の前記経歴詐称のみでは、解雇理由とはならないというべきである。

2 心身の故障(精神の健全性)

(1) 疎明と審尋によれば、申請人は、服装につき、旅行中にも大きな前掛けを着用するなど正常人と異った奇矯なものを身につける性癖があること、同僚や学生に対する態度が執ようで独善的であること、被申請人短期大学部の華道部顧問の地位にありながら、指導者の指導に容喙したり、同学部の学生に対し、一方的にカンニングと断定したり、同学部の修学旅行先で、父親に面会外出を要求する学生に対し、戸籍謄本を要求してこれを拒否するなどものごとの判断や思考方法が偏倚していることが認められる。

(2) 大学の助教授は、高度の学問的素養と共に学生に尊敬されるべき人格を備えていなければならない。そのいずれを欠いても大学助教授としての適格性はない。而して、申請人の前記各事実は、通常人の言動と比較して異常であるといえるが、更に申請人の大学における教授内容、方法、識見などを検討しなければ、これのみで解雇理由とするに足りない。

3 不適格性

(1) 疎明と審尋によれば、つぎの事実を認めることができる。すなわち、申請人の前記被申請人短期大学部における授業内容は程度が低く内容がない。例えば、英語の試験において自己の作成した問題で、独自の日本語(この文章も一読して趣旨不可解である。)の解釈論に終始したこともある。

申請人は、自分の担当科目の試験に際し、多数の学生に不可をつけ、とくに、昭和四四年度の後期試験では、受験者全員に不可をつけ、不可となった者には、午前一〇時から午後六時すぎにおよぶ試験(普通試験の時間は六〇分)をし、答案の作成に長時間を要した者を成績をよくし、早く答案を作成した者を再度不可とした。

昭和四三年度後期定期試験の際申請人自ら試験の監督を行ったが、確認がないにもかかわらず、一学生がカンニングを行ったと断定し、その学生の弁解に一顧も与えなかった。

申請人は、学生、職員に対し、その行動に異常に干渉し、ときには一、二時間にもわたって説教し、学生から排斥運動をうけたこともある。

(2) 右各事実と前記2の各事実を総合して判断すれば、申請人は、大学の助教授としての学問上の素養、人格、識見においてその適格上欠けるところがあるものといわざるをえず、したがって、被申請人が、右を理由として申請人を解雇することは合理的な理由があるというべきである。

三  解雇権の濫用

(一)  申請人本人審尋の結果によれば、申請人は、被申請人に雇用されて解雇されるまで、申請人の経歴につき、被申請人から質問をうけたことも注意をうけたこともないことが認められる。

(二)  本件審尋の全趣旨によると、被申請人が職員を解雇する際、教授会や賞罰委員会に付議するを要するものと認めるに足る疎明はない。

(三)  申請人は、本件は解雇権の濫用であると主張するが、右(一)の事実のみでは権利濫用の要件に該当せず、その他解雇権の濫用に該当しないこと、前記認定のとおりであるから右主張は失当である。

四  よって、申請人の本件申請は理由がないことに帰するので、これを却下することとし、申請費用につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 中島恒 裁判官 長西英三 戸田初雄)

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